このページでは、子どもからの「なんで勉強しなきゃいけないの?」という疑問に対し、脳科学や心理学の視点から勉強の価値と本質をやさしく解説します。
「もう嫌だ!こんなの大人になっても使わないもん!」
夕食前、リビングに娘の叫び声が響きました。算数のプリントを前に、鉛筆を置いたままふてくされている娘。私にも覚えがある光景ですが、いざ親の立場になると、どう答えるべきか一瞬迷ってしまいます。
ねえママ、なんで勉強なんてしなきゃいけないの? YouTubeを見てる方が楽しいし、計算なんて電卓があれば十分じゃない?
それはね……将来困らないようにするためだよ
『困る』って何が? お菓子屋さんになるなら、分数の計算なんていらなくない?
うーん、それは確かにそうかもしれないけど…
「将来のため」という言葉だけでは、今の娘には届きません。でも、ふと視点を変えてみると、勉強の本当の目的は「知識を詰め込むこと」だけではないことに気づきました。
お風呂上がり、娘の「なんで?」に本気で答えるために調べてわかった、勉強がもたらす「驚くべき脳の進化」と「自由な未来」についてお話しします。
勉強は「知識の貯金」ではなく「脳の配線工事」
多くの大人が「公式なんて忘れた」と言いながら立派に働いているのを見ると、確かに「知識そのもの」はそれほど重要ではないように思えるかもしれません。しかし、脳科学の視点で見ると、勉強のプロセスには全く別の意味があります。
実は、勉強とは「脳の配線(ニューロンのネットワーク)を太く、強くする作業」そのものなのです。
脳の可塑性:何歳でも学べる仕組み
スタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓氏によれば、何歳になっても学ぶたびに脳のニューロンが活性化して新しい神経回路が生まれます。これを脳の「可塑性」と呼びます。
参考:日本経済新聞「スタンフォード流勉強法 脳科学生かし記憶力アップ」
- 新しいことを学ぶ:脳の中に新しい道(電気信号の通り道)ができる
- 繰り返し練習する:その道がどんどん太くなり、情報が速く流れるようになる
- 難しい問題を考える:複雑な迷路のような道を切り拓き、脳の体力をつける
つまり、計算ができるようになること以上に、「どうすれば解けるか?」と頭を使うこと自体が、脳という筋肉を鍛える「筋トレ」になっているのです。
神経科学が証明する学習の力
文部科学省の脳科学研究報告によれば、1990年代以降、神経細胞の興奮に依存して活性化する細胞内情報伝達分子と、シナプス可塑性や記憶・学習機能との関連が明らかになってきました。
この筋トレで鍛えられた「考える力」は、将来どんな職業についても必ず役立つ一生物の財産になります。
算数や漢字が、あなたの「心の武器」になる理由
娘が言った「計算なんて電卓があればいい」という意見。確かに正論です。しかし、自分で計算できる力(論理的思考力)を持っていると、世界の見え方が変わります。
自分で判断できる力
例えば、スーパーで「20%オフ」と書かれた商品を見たとき、パッと計算ができれば「こっちの方がお得だ!」と瞬時に判断できます。もし計算ができなければ、誰かの言葉を信じるしかありません。
「自分で考えて判断できる」ということは、誰かに騙されたり、損をしたりしないための「心の武器」を持つことなのです。
言葉が心を救う
漢字も同じです。言葉をたくさん知っていれば、自分の苦しい気持ちや嬉しい気持ちを正確に伝えることができます。言葉を知らないと、イライラした時に「むかつく」という一言でしか表現できず、心の中のモヤモヤを解消することが難しくなってしまうのです。
「わからない」が「わかる」に変わる瞬間の魔法
勉強をしていて一番苦しいのは、答えが見つからない時ですよね。でも、実はその「わからない……」と悩んでいる時間こそが、脳が最も成長している瞬間です。
ドーパミンと学習の関係
理化学研究所の研究によれば、ドーパミンは報酬予測誤差信号として学習を制御していることが分かっています。さらに、ドーパミンはシナプス可塑性を制御する重要な役割を果たしています。
テルモ生命科学振興財団の解説によれば、私たちが何かをしようという「意欲」を持ったときにドーパミンが出て、それが「楽しい」という「快楽感」につながることはほぼ確実と考えられています。
「よし、これから勉強するぞ」と意欲を持ち、気持ち良く勉強することでドーパミンの働きが活発になり、勉強や仕事の効率が上がるのです。
「あっ、そうか!」の力
追手門学院大学の豊田弘司教授(教育心理学)は、学んだことが記憶に残るために必要な要素は「理解」だと指摘しています。人は覚えようという意図がない状態でも「あっ、そうか!」と理解したことは自然と頭に入るのです。
娘にもこの「ひらめきの快感」を伝えてみました。
ママ:「あのね、勉強は『答えを当てるゲーム』じゃなくて、自分の脳を『パワーアップさせる冒険』なんだよ。難しい問題が解けた時のスカッとする感じ、あれをたくさん集めるのが勉強なんだよ」
こぴよ:「えー、冒険なの? ちょっとかっこいいかも……」
「勉強しろ」は逆効果?親がやるべきこと
実は、親の声かけ一つで、子どもの勉強へのモチベーションは大きく変わります。
データが示す驚きの事実
2011年にベネッセ教育総合研究所が首都圏の保護者約7,500名を対象に行った調査では、「勉強しなさい」と声をかけられた子どもの平日の平均勉強時間は57.6分、声をかけられなかった子どもは53.3分と、わずか4分しか違いがありませんでした。
さらに興味深いのは、中学3年生では「勉強しなさい」と言わない家庭の方が約25分も長く勉強していたという結果です。
心理的リアクタンスの罠
広島文教女子大学の深田博己教授(社会心理学)によれば、「心理的リアクタンス」とは自由を制限されたと感じたときに、その自由を取り戻そうとする心理状態のこと。
簡単に言えば、「〇〇しなさい」と命令されると、人間は本能的に反発し、むしろ反対の行動をとりたくなる傾向があるのです。
親子で計画を立てる
同調査で、親子で勉強計画を立てることも効果的だとわかりました。子どもと一緒に勉強の計画を立てると答えた母親の子どもの平均勉強時間は約66.2分。そうでない場合は約47.5分で、約19分の差がありました。
実は、「子どもが自分から学ぶようになる関わり方」を
脳科学の視点でわかりやすくまとめた本があります。
『セルフドリブン・チャイルド(脳科学が教える育て方)』は、
- なぜ命令や管理が逆効果になるのか
- どうすれば子どもが「自分で考えて動く」ようになるのかを、感情論ではなく科学的に説明してくれる一冊です。
私自身、「勉強しなさい」と言わずに済む関係を考えるきっかけになった一冊でした。
勉強は、あなたの人生の「選択肢」を増やす旅
最後に、一番大切なことを娘に伝えました。それは、「勉強は、あなたの将来の選択肢を広げるためのパスポート」だということです。
横浜国立大学教授の視点
有元典文教授(教育心理学)は、勉強は本来「発達」、つまり未来の自分になるためにするものだと指摘しています。
今は「お菓子屋さんになりたい」と思っていても、数年後には「宇宙飛行士になりたい」と思うかもしれません。その時、もし勉強を全くしていなかったら、「なりたい」と思ってもその道を選べない可能性があります。
- 勉強をしている人:行きたい場所へ、いつでもどこへでも行ける
- 勉強を避けてきた人:選べる道が限られてしまう
勉強をしておくということは、未来の自分に「どんな人生でも選んでいいよ」という自由をプレゼントすることなのです。
「なんで勉強しなきゃいけないの?」という問いへの答えは、決して「テストで良い点を取るため」だけではありません。
それは、自分の脳を鍛え、世界を正しく理解し、そして何よりも自分の人生を自分の力で自由に選べるようになるためです。
娘への最終的な答え
お風呂上がり、改めて娘に向き合って話しました。
ママ:「こぴよ、さっきの『なんで勉強しなきゃいけないの?』っていう質問、ママも真剣に考えてみたよ」
こぴよ:「うん……」
ママ:「勉強ってね、実は『未来のあなた』へのプレゼントなの。今は算数が嫌かもしれないけど、その『わからない』と一生懸命考えている時間が、あなたの脳を強くしてるの。それは、筋トレで体が強くなるのと同じ」
こぴよ:「脳の筋トレ……?」
ママ:「そう。それに、計算ができると、自分で『これってお得なのかな?』って判断できるでしょ?言葉をたくさん知っていると、自分の気持ちを上手に伝えられるようになる。それって、誰かに騙されない『心の武器』になるんだよ」
こぴよ:「武器……かっこいい」
ママ:「今は『お菓子屋さんになりたい』って言ってるけど、もしかしたら将来『宇宙飛行士になりたい』って思うかもしれないよね。その時に、『あの時勉強してなかったから、なれない』って諦めなくていいように、今のうちに色々な道を選べるパスポートを作っておくの。それが勉強なんだよ」
こぴよ:「……じゃあ、勉強しておけば、大人になった時に好きなことが選べるってこと?」
ママ:「そう!勉強は、未来のあなたに『何にでもなれるよ、どんな道でも選んでいいよ』っていう自由をプレゼントすることなの」
こぴよ:「わかった……じゃあ、あと3問だけやってみる」
娘は少しだけ表情を和らげて、再び鉛筆を握りました。その小さな背中を見ながら、これからも彼女の「なんで?」を大切に、一緒に答えを探していこうと心に誓った夜でした。
最後まで読んでくれてありがとう!
子供の素朴な「なんで?」を今後も紹介するねっ!

